<国際相続②>相続人が外国人の時、気を付けることは?
国際化が進む昨今、日本で生活する外国人も多くなりました。日本に仕事の関係で数年暮らした後、母国に帰る方も勿論いますが、日本で家庭を築き、永住するといったパターンも少なくありません。
ここで言うまでもないことですが、日本は少子高齢化が社会問題となっており、それに伴って相続や終活といったキーフレーズを今まで以上に目にするようになりました。これからは、「親族の中に外国人がいる場合の相続手続き」や「外国人本人の相続手続き」がどんどん増えていくことが予想されます。
この記事では、相続人の中に外国人がいる場合、どのような手続きが必要なのかを解説します。
なお、この記事では遺言書がないことを前提とした説明をしているので、その点ご承知おきください。
外国人が関わる相続のパターンとは?
相続に外国人が関わるパターンは大きく2つに分かれます。
まず1つ目は、相続関係者(相続人など)の中に外国籍の人がいるパターンです。例えば、日本人と外国人が結婚し、日本人が亡くなった場合などは、残された配偶者=外国人が相続人となるのでこのパターンに当てはまります。
2つ目は、日本で生活する外国人本人が亡くなったパターンです。
このような、人や財産が2か国以上にまたぐ相続を「国際相続」または「渉外相続」と言います。この記事では取り上げませんが、相続関係人が日本人だけであっても、日本と外国に財産がある場合は国際相続ということになります。
相続人の中に外国人がいる場合は?
まず、日本人が亡くなって、相続人の中に外国人がいるパターンについて説明します。
亡くなった日本人が外国人と結婚していた場合や、子どもが外国籍の場合などが当てはまります。あとは、日本人が外国に帰化して日本国籍から離脱し、外国人となった場合もこのパターンに当てはまります。
この場合は、基本的には相続関係者が日本人だけである場合と同じ手続きが必要になります。なぜならば、「相続手続は、被相続人の国の法律にもとづいて行う」という法律があるからです。被相続人とは、亡くなった人のことです。つまり、日本人が亡くなったのであれば相続人の中にどこの国籍の人がいようと関係なく、日本の法律にのっとって手続きをしなくてはならないのです。法定相続人になるかどうか、法定相続分がどのくらいかということにも国籍は関係ありません。外国人も日本人と同じルールに従って相続人や相続分を決定します。
ただ、外国人が相続人の場合、相続手続きに必要な書類の準備に手間取ることがあります。
相続に必要な書類がない!?
相続では戸籍謄本や住民票、印鑑証明書など、たくさんの書類を用意しなくてはいけません。
日本人であれば、請求先の市区町村役場さえはっきりしていれば取得するのもそうは難しくはありません。(勿論例外もありますが…)
これが外国人の場合はどうか、みていきましょう。
戸籍謄本
まず、戸籍謄本についてですが、日本に住む外国人であっても日本の戸籍謄本を取得することはできません。「戸籍」は日本人に与えられるものだからです。
そもそも、相続手続きの中で戸籍謄本を取得する目的は、亡くなった方(被相続人)と相続人の関係を確認することです。もしも、その外国人の配偶者が日本人の場合、日本人配偶者の戸籍謄本ないし除籍謄本に外国人の氏名が記載されますので、それを相続関係の確認書類として使えることがあります。
日本で相続関係を証明する書類をどうしても発行出来ないこともあります。その場合、母国の戸籍謄本を取得すれば良さそうですが、日本の戸籍のような家単位で登録する制度がある国は実はとても少ないのです。戸籍制度がない国では、一般的に出生証明書や婚姻証明書、死亡証明書などが親族関係の証明として使われています。相続でも、これらの書類を取得します。書類は在外公館で発行してもらいます。
住民票
日本に居住して住民登録をしている外国人であれば、住民票は日本人と同じように取得することができます。
日本に居住していない場合、日本の住民票は取得出来ません。その場合は、外国で「宣誓供述書」を代わりに取得します。「宣誓供述書」とは、日本でいう公証役場のようなところでその国の公証人が作成する、事実関係を証明する証明書です。
印鑑証明書
日本に住民登録をしていれば、日本で印鑑登録を行うことが出来ますので、外国人でも所定の手続きを踏めば印鑑登録書を取得することが出来ます。(なお、印鑑登録できる文字には制限があるので、外国人の方が初めて実印を作成する場合は市区町村役場にルールを確認しておきましょう。)
しかし、外国に住んでいる場合は印鑑証明書はありません。その場合、代わりに「署名証明書」を提出します。日本の様に印鑑文化がない国の場合、その人のサインが本物で間違いないことの証明として署名証明書を発行するのです。これは、本国の公証人や在日大使館・領事館が発行してくれます。
印鑑証明書は遺産分割協議書に添付するものです。遺産分割協議書に押す実印が本人のもので間違いがない、という証明書なので、署名証明書を添付する場合はもちろん遺産分割協議書の押印も必要ありません。
★遺産分割協議書についてはこちらの記事をご覧ください
相続に必要な手続き⑤~遺産分割協議
取得した書類はかならず日本語へ翻訳!
外国語の書類は、そのまま出せば終わりではありません。必ず、日本語に訳しておかなくてはなりません。
翻訳は、プロの翻訳家に任せれば勿論安心ですが、「バイリンガルだから自分でも翻訳できる」「費用を抑えたいから自分で翻訳したい」という人もいるかもしれません。そういった場合、自分で翻訳してしまってもいいのでしょうか。
これは、提出先によってルールが違うかもしれないので、絶対大丈夫ですとは言えないのですが、必ずプロが翻訳しなくてはならないという訳ではないようです。翻訳者を特に記載しなくても問題ない場合もあります。
勿論、公的な書類の翻訳ですし、重要な手続きに使うものなので、専門用語も含め正確な翻訳が求められます。最近はAI技術の進歩に伴い、簡単な文章であればAIが翻訳できます。しかし、まだまだAIで完璧な翻訳は不可能です。翻訳にAIを使った場合、最後は必ず十分な知識のある人間が内容の確認を行い、加筆修正を行ってください。
外国人が日本で亡くなったら?
外国人が日本で亡くなった(=被相続人が外国人)のパターンを説明します。
外国人の相続が発生した時、まず確認しなくてはならないのは「どこの国の法律に従うべきか」(=準拠法は何か)ということです。
国際相続の準拠法については、「被相続人」を基準として適用される法律が決まります。「被相続人」とは、亡くなった人のことです。つまり、外国籍の人が日本で亡くなった場合はその人の本国の法律に従って相続手続きを行わなくてはならないのです。
ただし、本国の法律に「その人が住んでいる地域の法律が適用される」とされていた場合は、生前住んでいた地域=日本の法律を基準として手続きします。
さらに、相続財産が何かとうことも重要です。国によっては、相続財産を動産・不動産に分け、それぞれ異なる国の法律を基準にしなくてはならない場合があります。例えば、アメリカ人が亡くなり、その人の相続財産が日本の不動産や預貯金だった場合、不動産についてはその所在地の法律(=日本の法律)に従い、それ以外の財産についてはアメリカの法律(アメリカの場合は州法)に従うこととなります。
外国にも財産がある場合に、どのような手続きが必要かということも国によって大きく異なります。
★日本に住む外国人が亡くなった場合については、こちらの記事をご覧ください。
<国際相続①>日本に住む外国人が亡くなったら?
国際相続は複雑…慎重かつ丁寧な対応が必須!
外国人が相続関係人に含まれる場合、日本人だけの相続手続よりも煩雑になることがほとんどです。専門家に依頼するにしても、相続手続きについてだけではなく、国際業務についても精通している専門家を探す必要があります。
また、海外とのやり取りが発生すると、どうしても時間がかかりがちです。相続手続きが長期化することを見越して、早め早めに行動した方が良いでしょう。
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北野早紀行政書士事務所
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