「相続土地国庫帰属制度」とは?いらない土地を相続した時!
「相続財産」というと、故人が持っていたお金や資産がもらえるというプラスのイメージが強いかもしれません。しかし、最近は「欲しくないのに相続しなくてはいけない…」という悩みを抱えている人も増えてきています。
そんな時に活用できる制度として、「相続土地国庫帰属制度」が出来ました。この記事では、制度が出来た背景や、制度の内容について紹介していきます。
土地を「相続したくない」人が増えている!
亡くなった方が不動産を所有していた場合、その人の相続人がその不動産を引き継ぐこととなります。亡くなった方と一緒に同居していた家族が、住んでいる家や土地を相続する分にはなんの問題もないでしょう。しかし、相続人が実家を離れて暮らしている子供だった場合はどうでしょうか。相続人が結婚して実家を出ており、自分の家を持っている場合、実家をもらっても使い道がないとなることも少なくありません。
また、亡くなった方が農業をしていて土地をいくつも持っていた場合は、相続人が農業をやらないのであれば、相続したとしても土地を遊ばせたままになってしまうことが多いです。
不動産を相続すると、持っている不動産に対する「義務」と「責任」が発生します。
空き家を放っておくと、すぐにあばら家のようになってしまって防犯上も治安上も良くありません。土地も何もしなければ、雑草が茂って害虫が発生したり、土地の境界を越えて隣地に草木が入り込んだりと、問題が発生します。近隣住民とのトラブルに発展する可能性もあります。
不動産の所有者になったからには、きちんと手入れをしたり、管理をしなくてはならないのです。
さらに、税金の問題もあります。不動産は、所有しているだけで「固定資産税」などの税金がかかります。特に何も活用できない場合であっても、毎年必ず税金を納めなくてはならないのです。
不動産を相続することのメリットよりもデメリットの方が大きい場合、「相続したくない」「相続した不動産を手放したい」と考えるのは自然なことです。実際、国民の意識調査では「土地所有に対し負担感を感じたことがある又は感じると思う」と回答した人は約42%にも上ります。(出典:平成30年度土地白書)
近年、仕方がなく土地を相続した後、管理が行き届かないケースが増えており、空き家や空き地の管理不全化が社会問題となっています。
こういった問題を背景に出来た制度が「相続土地国庫帰属制度」なのです。
なお、空き家対策の一環として2024年4月1日からは「相続登記の義務化」が始まります。
こちらについても、不動産所有者や不動産を相続する可能性がある人は要チェックです。
★相続登記の義務化についてはこちらの記事をご覧ください。
不動産を相続する人必見!相続登記の義務化とは?
相続土地国庫帰属制度とは?
制度の内容を具体的にみていきましょう。
この制度は、「相続または遺贈により取得した土地を手放し、国庫に帰属させることができる」制度です。ここで言う遺贈は、相続人に対する遺贈に限ります。この制度は、令和5年4月27日から施行されています。施行日以前に発生した相続に関しても、この制度は利用可能です。
相続土地国庫帰属制度を利用して、相続した土地を国庫へ帰属させることが出来れば、土地の管理や処分は国が行ってくれます。もっと細かく言うと、主に農用地として利用されている土地や、森林として利用されている土地は農林水産大臣が管理・処分し、それ以外の土地は財務大臣が管理・処分することとなります。
所有していた相続人にとっては管理の負担がなくなるというメリットがあり、国としても管理や処分が容易になって管理不全の土地の増加を抑制できるというメリットがあるのです。
相続土地国庫帰属制度を利用できる条件は?
この制度は不要な土地を相続してしまった人にとってはとても魅力的なもののように思えます。しかし、誰からでも、どんな土地でも無償で国が貰ってくれるわけではありません。大きく分けて、人・土地・お金の3つの要件をクリアしなくてはなりません。
相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により土地を取得した人が申請しなくてはならない!
この制度はあくまで相続をきっかけに土地を取得した人が利用できるものです。元々持っていた土地がいらなくなったから、とか、知人から土地をもらった(贈与された)、売買によって土地を手に入れた、というようなケースは当てはまりません。
土地を相続したのであれば、それが一人で相続したものであっても、複数で相続したものであっても大丈夫です。例えば、相続人が2人いて、土地の所有権を2分の1ずつ相続した場合であっても、相続人2人とも申請が可能です。
国が管理をするのに、とても費用や労力がかかってしまう土地はダメ!
この制度を利用する為には土地の要件をクリアしなくてはならないのですが、その要件は「却下要件」と「不承認要件」に分かれています。
却下要件は、当てはまればただちに申請が却下される=門前払いされる というものです。
不承認要件は、その土地の管理・処分に係る費用や労力がどの程度かかるかを事案ごとに個別判断するものです。「不承認要件に該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない」とされています。分かりづらいですが、平たく言えば、不承認要件に当てはまらなければ土地を国が貰ってくれる、ということです。
それぞれについて、細かく書くと次のとおりです。
<却下要件>
申請する土地が次の①~⑤いずれかにあてはまる場合は申請が却下される
- 建物がたっている土地
- 担保権または使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
- 通路その他の他人による使用が予定されている土地が含まれる土地
(墓地、境内地、通路・水道用地・用悪水路・ため池として使われている土地) - 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地、所有権や範囲などを争っている土地
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<不承認要件>
申請した土地が次の①~⑤全てにあてはまらなければ、国庫への帰属が承認される。
- 崖(勾配が30度以上であり、かつ高さが5m以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理に過分の費用又は労力を要するもの請求する戸籍に記載されている人
- 土地の通常の管理又は処分をするのに邪魔になる工作物、車両、樹木、その他の有体物が地上にある土地
- 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下にある土地
- 隣の土地の所有者などと裁判で争わないと通常の管理又は処分をすることが出来ない土地(隣の土地の所有者などによって通行が妨害されている土地、所有権に基づく使用収益が妨害されている土地)
- 通常の管理又は処分をするのに過分の費用又は労力が必要な土地
- 土砂崩れや地割れなどの災害による被害発生を防ぐため、土地の現状に変更を加える措置を講ずる必要がある土地(軽微なものを除く)
- 鳥獣や病害虫などにより、その土地や周辺の土地にいる人や農産物、樹木に被害が出る、又は出る恐れがある土地(軽微なものを除く)
- 適切な造林・間伐・保育がされておらず、国による追加の整備が必要な森林
- 国庫に帰属した後、国が管理するのに必要な費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地
- 国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地
ここまで見て頂いて分かる通り、土地に関する要件は厳しいです。相続した土地を手放したいと思っていても、その土地に家が建っていたら更地にしなくてはいけませんし、雑木林の様に荒れ放題になってしまっている場合はそれを整備してからでないといけません。
まず前提として、国が管理や処分をするのに必要以上にお金と手間がかかってしまう場合は、認めてもらえないのです。
この制度を利用するということは、土地そのものの資産価値がなく、不動産屋を介して売却が出来ないというケースがほとんどだと思います。そう考えると、相続土地国庫帰属制度の利用を検討する場合、まずは土地の要件をクリアできるかどうかというところから考えると良いでしょう。
標準的な管理費用10年分を負担金として支払わなくてはいけない!
国はタダで土地をもらってくれません。今後10年間の管理に必要な費用を負担金として納付しなければならないのです。
とはいえ、どのような土地なのかによって管理に必要な費用も変わってきます。そこで、国は土地の種類によって標準的な管理費用の計算方法を定めました。細かい計算式については省略しますが、大雑把に書くと次のとおりです。
①宅地
面積に関わらず20万円(ただし、一部の市街地の宅地は面積に応じ算定)
②田、畑
面積に関わらず20万円(ただし、一部の市街地、農用地区域等の田畑は面積に応じ算定)
③森林
面積に応じ算定
④その他(雑種地、原野など)
面積に関わらず20万円
この負担金の計算には特例があります。
隣接する2筆以上の土地については、一つの土地とみなして、負担金の額を算定することが出来るのです。
例えば、100㎡の宅地が2つ隣り合っている場合、通常の計算方法だと100㎡×2=40万円の負担金がかかりますが、この特例を使うと200㎡の1つの土地とみなされ、20万円の負担金になります。
どのように手続きすればいいの?
自分の土地を要件にあてはめてみて、どうやら申請しても大丈夫そうだと分かった場合、具体的に何をすればよいのかを順を追って説明していきます。
①申請
申請先は、申請する土地がある都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)です。窓口に提出するか、郵送で提出することとなります。
申請には審査手数料を支払う必要があります。審査手数料は、土地一筆当たり14,000円です。申請時に、申請書に審査手数料額に相当する額の収入印紙を貼って納付します。この審査手数料は、申請を取り下げた場合や、審査の結果却下や不承認になった場合でも返還されません。
申請書の他に、提出しなくてはいけない書類があります。
(1)承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
(2)承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真
(3)承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真
(4)申請者の印鑑証明書
上記の他、遺贈によって土地を取得した場合、申請者と登記上の名義人が異なる場合に必要な書類があります。
また、任意で添付する書類もあります。
詳しくは法務省のHPでご確認ください。
★法務省:相続土地国庫帰属制度の概要
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html
②要件審査
受付されると、法務局担当官による書面調査が行われます。この時点で要件を満たしていない場合は申請が却下されます。
書面調査をクリアすると、次は実地調査が行われます。実地調査の結果、却下あるいは不承認となる可能性があります。
要件審査では、担当官は地方公共団体等に対して情報提供を求めたり、国有財産の管理担当部局等に調査への協力を求めることができるとされています。また、国や地方公共団体に対して土地国庫帰属制度の申請があったという情報を提供し、土地の寄附受けや地域での有効活用の機会を確保します。
③承認
実地調査もクリアすると、法務大臣・管轄法務局長によって申請が承認されます。申請者には承認通知・負担金通知がなされます。
④負担金納付
通知を受け取ったら、負担金を納付します。負担金の納付は通知を受けてから30日以内に行わなくてはなりません。
⑤国庫帰属
ここまでの手続きが終われば、晴れて土地は国庫に帰属され、申請人(相続人)は土地の所有者でなくなります。
⑥国による管理
国庫帰属後は、管理庁(財務省・農林水産省)が国有財産として管理します。
以上が制度を利用した場合の流れになります。
法務局ではパンフレットや解説動画も公開しており、そちらも非常に参考になります。
また、具体的に手続きをしようと思った場合は管轄法務局に一度相談をすると良いです。相談をする場合は事前に予約をとってから行くようにしましょう。
いらない土地を相続した時…放置せずに制度利用を検討しよう!
いらない土地を相続しなくてはならない時、このまま放っておいて知らなかったことにしたい…と思ってしまう人もいると思います。しかし、所有者が分からなくなってしまった土地は様々な場面でトラブルの原因になります。土地を放置してしまったことで周辺住民や関係者に損害が発生した場合、その賠償を求められる可能性もあります。
不動産仲介業者を通じての売却が難しい場合でも、土地国庫帰属制度を利用すれば土地を手放すことが出来るかもしれません。
要件は確かに多いですが、一度検討してみてはいかがでしょうか。
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