最低限の財産を相続出来る権利~遺留分について解説!
相続手続きを行う際、遺言書がある場合は、基本的には遺言書通りに遺産を分けていくことになります。
しかし、この時に気を付けなくてはならないことがあります。それが「遺留分」です。
この記事では、遺留分について解説していきます。
遺留分ってなに?
遺留分とは、「残された家族の生活を保障するために、最低限の相続分を相続することが出来る権利」のことです。
例えば、遺言書に長男には何も相続させないという内容が書いてあったとしても、長男がその内容に納得しなかったとします。
この場合、遺言者や他の相続人がいくら長男へ遺産をわたしたくなくても、法律で保障された最低限の分だけは、長男が「遺留分」として承継する権利を主張することが出来ます。
遺留分は権利なので、行使するかどうかは本人次第です。本人が特に請求しなくても良いと思っていれば、何のアクションも起こさずに終わります。
しかし、言葉は悪いですが「例え少額であっても貰えるものは貰いたい!」と思っている人であれば、遺留分を請求してくる可能性は十分あります。
遺留分を請求できるのは誰?金額は?
遺留分は、法定相続人が請求することが出来ます。ただし、兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺留分の額は、法律で計算の仕方が決められています。
<遺留分の計算>
次の割合に、各遺留分権利者の法定相続分を乗じて各相続人の遺留分割合を算出する。
- 直系尊属(親など)のみが相続人の場合…被相続人の財産の1/3
- それ以外の場合…被相続人の財産の1/2
これだけでは分かりづらいので、具体例を挙げます。
◆遺産・・・1億円
◆相続人…配偶者と子供2人 の場合。
この例での配偶者の法定相続分・・・1/2
子供1人あたりの法定相続分・・・1/2×1/2=1/4
この割合にさらに1/2を乗じた額が遺留分なので、
配偶者・・・1/2×1/2=1/4
子供1人あたり・・・1/4×1/2=1/8
つまり、
配偶者・・・1億円×1/4=2500万円
子供1人あたり・・・1億円×1/8=1250万円が遺留分となります。
遺言書は万能ではない!?
遺言書を書くとき、遺留分には気を付けなくてはなりません。
なぜならば、例え遺言書で相続人や相続財産の分け方について細かく指定していたとしても、その内容が遺留分を侵害した内容になっていると、遺留分を侵害された相続人が、遺産を受け取る人に対して「最低限の相続財産はちょうだい!」と言う事が出来るからです。
これを「遺留分侵害額請求」といいます。
具体例をひとつ紹介します。
<例>
◆亡くなった方(被相続人)・・・Aさん
◆法定相続人・・・Aさんの配偶者Bさん、長男Cさん、次男Dさん
Aさんは生前遺言書を作成していました。Aさんは次男のDさんとは仲が悪く、自分が亡くなった時はBさんとCさんの2人で相続財産を分けてほしいと思っていたので、遺言書にもそのように記していました。
ところが、Aさんの死後、遺言書を読んだDさんは、「俺は息子なんだから、俺も遺産を相続する権利がある!」と主張し、遺留分侵害額請求権を行使しました。
この場合、AさんやBさん、CさんがいくらDさんに遺産をわたしたくないと思っていても、Dさんは遺留分相当額の金銭をBさんとCさんに請求することが出来るのです。
法改正により、遺留分侵害額は、原則的に侵害額に相当する金銭を支払うこととなりました。
そのため、他の相続人が相続した財産が不動産などであっても、不動産を分割して共有するということはせず、侵害額相当のお金を支払うことになります。
以上の事から分かるように、遺言書を作成したとしても、内容によっては必ずその通りになるとは限らないのです。
勿論、例え遺留分を侵害した内容であっても作成することは可能ですし、法的な効力を持ちます。
しかし、相続発生時にその内容を不服に思った法定相続人が、遺留分侵害額請求権を行使する可能性があるということは知っておかなくてはなりません。
遺留分侵害額請求権の時効
遺留分侵害額請求権がいつまでも使えてしまうと、相続人は相続手続き開始から何十年経っても安心することが出来ません。
しかし、遺留分侵害額請求権には時効があるので、その時効を過ぎてしまえば新たに遺留分侵害額を請求されることはありません。
遺留分侵害額請求権の時効は、「遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき」です。
さらに、「相続開始の時から10年を経過したとき」も同様に時効によって消滅します。
相続が開始したこととは、つまり、被相続人が亡くなったことを意味します。
つまり、何らかの理由で被相続人が亡くなったことを知らない法定相続人がいたとしても、亡くなってから10年経過したら、時効により遺留分に関する請求は出来なくなります。
遺留分を請求されたくない…そんな場合は?
よく、「どうしても相続財産をわたしたくない親族がいる。でも遺留分がある。なんとかならないか?」という相談があります。
実は、どうしても遺留分をわたしたくないといった場合、遺留分の放棄をしてもらうという選択肢があります。
しかし、実際はこれは大変難しいため、最初から出来ないと考えていた方がいいかもしれません。
遺留分を放棄するには、遺留分権者(遺留分を放棄する人)が自ら家庭裁判所に出向く必要があります。遺留分の放棄について十分に納得し、かつ労力をかけて放棄の手続きをとってもらわなくてはならないのです。
遺産を相続出来る権利を、無条件で放棄してほしいと頼まれても、大半の人にとってはなかなか受け入れ難いことです。
裁判所も、脅されて遺留分を放棄したといったことが発生しないように、慎重な審査の上で遺留分放棄を認めるか否かを判断しているようです。
また、例え相続財産を受け取らなくても良いと思っている人であっても、事前に遺留分を放棄するという手間暇をかけてまで協力してくれる人は稀です。
多くの人は、いざ相続が発生してから相続放棄をするなり、相続財産を受け取らないという内容の遺産分割協議書に署名押印するなりした方が、分かりやすいし楽だと考えるでしょう。
遺留分はその人の「権利」なので、誰かが奪うことは出来ません。
どうしても遺留分をわたしたくない場合、話し合いで相手方にこちらの気持ちを理解してもらうのが理想ですが、遺留分をわたしたくないということは話し合いが難しい相手の場合も多いかと思います。
遺留分をわたしたくないからと言って、相続開始を意図的に隠すようなことはやめましょう。
相続があったことを知らせたうえで、時効の1年が過ぎるまで待つより他にありません。
この時、トラブルが予想される場合は、相続開始をいつ知らせたかということが分かるように、記録に残る方法で通知すると良いでしょう。
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